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日本を代表する商社のコーポレートブランディング

仕事
Mar 26,2020

前回はスペインのインポートファッションのトータルブランディングを手掛けている話を書きましたが、それに関連して今回は商社のブランディングを紹介しましょう。

関連して、というのは同じブランディング領域の事例ということもありますが、6ブランドのアパレルをスペインから輸入している代表の人が偶然、この商社に以前勤務されていたというつながりもあります。

MUSUBIのステートメントとシンボルをデザインしました
以前の記事で、ロゴマークは企業が実現したいゴールへ向かうための旗印ですが、それより重要なことは言うまでもなく企業活動そのものであり、ロゴマークは企業が活動する市場において、企業活動をサポートする要素の1つとして考えるべきと書きました。
ロゴを変えただけでは何も変わらないということです。
もしサービスや企業のロゴマークを刷新する機会があったら、一番大切なことはアウトプットそのものではなく、そのアウトプットにより企業活動がよりスムースになることなのです。
そのためには、開発プロセスにおいてプロジェクトメンバー全員の想いを掘り起こし、意思を共有することが非常に重要だと思います。
ロゴマーク開発のゴールは、もちろん外向けでもありますが、単に見え方を変えただけでは企業活動の本質は何も変わらない。
目的は進むべき方向を共通で認識することにより、全員同じゴールに向かってブレない活動が可能になること。
それがなければ中身の伴わない単なる化粧直しになってしまう。
今の時代、活動が伴わない表面的な刷新に、ユーザは騙されません。
外向けにロゴマークを作ると思いがちですが、そうではなくて想いの可視化、全員の拠り所としての旗印を作ると考えた方がよいでしょう。
想いを社員全員の行動レベルまで落とし込むこと。
そちらの方が未来の実現したい姿に向かって果たす比重は大きいと思います。
今の時代、企業に必要なことはブレない一貫した企業活動であり、ユーザはそこのみを見て評価しているといっても過言ではありません。
それには活動する内部の人の意思統一が最も重要な課題だと思います
キービジュアルとともにスローガンも開発
さて、今回もそんなことを強く感じるプロジェクトでした。
丸紅新電力は、丸紅が100%出資する自然エネルギーを供給する企業です。
今回、その会社のコーポレートキービジュアル開発を目的とした3社コンペに呼ばれました。
そもそもキービジュアルとは何か?というと、
企業が持つフィロソフィや理念、社会における企業の存在理由
それらをシンボリックに視覚化することです。

まず今回のプロジェクトの目的をヒアリングによって明確にし、企業の存在意義を定義しました。
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丸紅新電力のビジョン
より良い未来の当たり前を、電気を軸に作り続けます。
日本の元気を、日本の電気で、百年先まで。
すべてのお客さまのパートナー

今回のキービジュアル開発の目的
1、会社の理念をすべての社員に深く理解してもらい、行動レベルまで落とし込む。
2、価格だけではない永続的な価値を訴求し、社外へも企業ブランドの浸透を図る。
3、理念を視覚化することで、代理店社員にも理解を促し、受注率の向上を目指す。

丸紅新電力が社会に存在する目的は、
人と人・国と国・モノとモノをつなぎ、世の中を未来へ動かしていくために存在する
丸紅新電力が目指すことは、
電気をきっかけに永続的で安定した社会を創る、新しい価値を創造し続ける
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ここまでがヒアリングを重ねた結果により明確になったことで、ここからはそれらを視覚化する作業です。
当初デザインに対して出た要望が3つありました。
1、総合商社感
電気をきっかけにクライアントの利便性を支える
2、ミッションの視覚化
永続的で安定した社会を創る約束
3、赤、丸など、丸紅のイメージは排除して欲しい
初期の頃の提案では「つながる」をコンセプトに
丸紅のロゴである紅い輪
結果的に提案回数は全7回に及びましたが、その度に新しい要望が出て提案の方向性も変わり、かなり苦戦することになります。
まず最初に要望で出ていた総合商社感というオーダーに応えるために、商社とは何か?ということから考えました。
商社はメーカーではないから物を作る仕事ではない、
モノとモノをつなぐ、人と人をつなぐビジネス、そういえば電気もコードでつながっている、
つなぐことで新しい価値を生み出す企業を商社と位置づけ、「つながる」をコンセプトにデザインに着手しました。
丸紅のグループ会社という立ち位置のために、丸紅本体にフィードバックして「つなぐ」営業的なミッションを持っていることもわかってきました。
総合商社らしさは必要だが、丸紅らしさは排除して欲しいという最初のオーダーは、デザインを提出していく途上で、最終的に丸紅らしさを入れてほしいという要望に変わっていきます。
丸紅グループには、紅い輪をアイコンとして、「尖った丸になれ」という共通のスローガンがあります。
それを引用してデザインしていく中で、「つながる」という考えは、「結ぶ」へとシフトしていきました。
引けば引くほど強く結ばれる=人と人をつなぐ・結ぶ、「縁結び」というコンセプトです。
突き詰めて考えていく中で、日本古来のモチーフ、「水引」に行き着きます。
水引の起源は室町時代の日明貿易にあり、商社のルーツという歴史的事実があることも判明。
結ぶというコンセプトを現代的な水引のイメージとともに、「MUSUBI」と英字で表記する提案を行いました。
「MUSUBI」には縁結びだけでなく、電気をつなぐ、未来をつなぐ、商社としてつなぐ、社会、お客様、自社の3つを1つに結ぶビジネス、というメタファーを持たせています
結局最終案の決定までに32案も提出することになりました。
完成したこのキービジュアルを丸紅新電力の社員の皆さんにぜひ活用していただきたい。
そして日本中のクライアント、代理店の方々に共感を促す旗印として、企業活動の一助になればと思います。
https://denki.marubeni.co.jp/company/musubi/
提案は、「つながる」コンセプトから「結ぶ」へ変化
丸紅グループのロゴである紅い輪をモチーフに
最終決定案を名刺に展開
最後に。
最終的に求められたアウトプットはデザインですが、詰めていく途上で今回強く感じたことがあります。
提案にロジカルな発想を求められるのは常ですが、今回言葉による伝達が非常に重要だと痛感するシーンが何度もありました。
デザインの提出には、毎回言葉によるキャッチコピーを添えて、絵とコピーライトを繰り返し提案して見せる手法を選択しました。
ビジュアルとともに、言葉によるアプローチを添えることが有効だと判断したためです。
言葉の力は非常に強い。
「MUSUBI」というワードもそこから生まれたものです。
絵の意味を深く理解してもらうために、言葉による伝達はコピーライターだけでなく、アートディレクターに求められる必要最低限のスキルだということを強く感じたプロジェクトでもありました。

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松本知彦 Tomohiko Matsumoto

東京新宿生まれ。
漫画家の父親を持ち、幼い頃より絵だけは抜群に上手かったが、
働く母の姿を見て葛藤し、美術を捨てて一般の道に進むことを決意。
しかし高校で出逢った美術の先生に熱心に説得され、再び芸術の道に。
その後、美術大学を卒業するも一般の上場企業に就職。
10年勤務ののち、またしてもクリエイティブを目指して退社独立、現在に至る。

  • 趣味:考えること
  • 特技:ドラム(最近叩いていない)
  • 好きなもの:ドリトス、ドリフターズ、
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