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あなたは、ロマンにどこまでお金を払いますか?

ライフスタイル
Jul 03,2020

今、ファッションは生活の中でどんどん価値のプライオリティが下がっているように思います。

そこにお金を使う価値というのは確実に以前より低くなっていますよね。

ファッションだけでなく、カルチャーというカテゴリーに属するジャンルはどれも同じような傾向にあります。

カルチャーが好き、カルチャーで育ったともいえる自分自身は、こうした傾向を見るとちょっと悲しくもあり。

この懐かしいプレート、Flesh serviceで買ってしまいました
最初は映画、次に音楽でした。
DVDやレンタル、そしてオンデマンドが普及してきた頃、自宅で映画が見られるのだから、映画館にわざわざ高いお金を払って見に行く必要はない、とまでは言わないまでも確実に映画館へ行くモチベーション、プライオリティは下がりました。
暗い映画館に集まって映画を観るなんて旧世代の人みたいでカッコ悪いという印象が初期の頃にはあったと思います。
実際、その頃の映画の興行収入も落ちたと記憶しています。
音楽も同様でしたよね。
ネットで音楽のダウンロードができるようになると、CDのようなパッケージメディアを購入する行為自体がダサい、古いという扱いを受け、CDだけでなくCDを売っていた店もあっという間に消えてしまいました。(アメリカ本国のタワーレコード並びにイギリスのHMVは、どちらも倒産、日本のHMVはローソンが買収)
Youtubeで無料で聴けちゃうって時代ですから。
Flesh Serviceのお店はめっちゃわかりにくい場所にあります
カルチャーはロマンだと思います。
ロマンとは形のないもの、投資とは違って回収という考え方が存在せず、その価値は個人が決めるものです。
自分のロマンをどれだけ追うのか?そこにどれだけの価値を見出すのか?そこにどれだけのお金を掛けるのか?ということだと思います。
店内に展示している商品はほとんどが他店でも売っているもの
駅からかなり遠い割に、店内はすごく狭くて釣り合わないw。
オンデマンドで映画や音楽を楽しめるようになりつつあったあの頃から、状況は変化しています。
1度凹んだ映画産業も、体験型と位置付けられ、そこでしか体験できない価値として、映画館にみんな戻ってきました。
それは以前のカルチャーという概念が、エンタメという別のジャンルに変異したのだと勝手に解釈しています。
それが証拠に、大ヒットのハリウッド映画(エンタメ寄り)と単館で封切られるマイナー映画(カルチャー寄り)には、より強いコントラストの落差がつくようになりました。
以前フランス映画社が配給していたセリフの多いフランス映画や、六本木のWAVEの地下にあったシネヴィヴァンでしかやってなかった映画が懐かしいです。
エンタメになれなかった映画、たとえば「Stranger Than Paradise」「ベルリン天使の詩」の上映を手掛けた単館専門のフランス映画社は、残念ながら2014年に倒産してしまいました。
アマゾンでも売ってるこの時計、かなり欲しい
音楽もそうですね
パッケージが消えて、ミュージシャンたちはライプを主体に活動するようになりました。
ダウンロードできるんだから家で聴けばいいということではなく、今は体験を求めて全国のフェスにたくさんの人が集まるようになっています。
その行動も音楽を聴きに行くというより、知らないミュージシャンもいるけど、「みんなで場を楽しむエンタメ」を求めて人が集まっているのだと思います。(もちろんそうじゃない人もいるでしょうけど)
体験という点で共通するのが、アナログレコードとカセットテープが売れていること。
デジタルの反動と言ってしまえばそれまでですが、人は技術が行く着くところまで進んでしまうと、今度はリアルな体験や過去のノスタルジーを求めるようになるのです。
そこにあるのはやっぱりロマンだと思います。
サブスクでは決して得られない体験を求めているのかもしれません。
最近はオリジナル商品の割合を増やしているようです
この商品も既存のペンケースに名前を入れただけです
前置きがものすごく長くなってしまいましたが、本題はここからです。
南貴之という人を知ったのは1DKのクリエイティブディレクターという肩書からでした。
自身のアパレルブランドGraphpaperが話題となり、2018年には老舗書店の有隣堂から日比谷ミッドタウンのフロアプランを任せられ、HIBIYA CENTRAL MARKETを作った。
このめちゃ昭和な空間で、初めて見たのが、彼の手掛けるフレッシュサービスという業態でした。
架空の運送会社をイメージしたセレクトショップ。
現在はオリジナル商品の割合を増やしていますが、扱っている商品の多くはレトロとも言うべき定番の文房具にブランドの名入れをしたものです。
わかりやすい例でいうと、町で普通に売ってるサインペンに自身のブランド名を入れて売っている。(藤原ヒロシと同じアプローチ)
どこにでもあるといえばある。
ただそれを独自の編集視点で集めてきて、名前を入れて展示すると魅力を発するということ。
商品そのものは昭和の時代からあって、探せば他の店でも売っているものです。
どれも身近にあったら素敵だけれど、特にないと困るものは1つもない、
それにグラッと来て、買ってしまうとしたら、それはロマンでしかないです。
以前青山にあったD&Departmentとギャルソンがコラボしたお店や恵比寿にあるPFSのパーツセンター、または僕の大好きな松屋のデザインコミッティにも近いお店と言ったらいいでしょうか。
冒頭で紹介したプレートはパッケージが可愛い
箱の中身はこんな感じ。これをロマンと言わずに何という
フレッシュサービスの青山本店は、めっちゃ駅から遠くて不便でわかりにくい場所にあり、店の広さも6畳くらいしかありません。
専門的な話ですが、マーケットは今、BtoB、BtoC、CtoCでもなく、DtoCが注目ワードになっています。
Direct to Custumerの略ですね。
店舗はなく、オンラインのみでの販売をメインとしたビジネス。
フレッシュサービスも店舗はあるけれど、これに該当すると思います。
そこにロマンを注入している。
モノがあふれる時代、勝負は編集力とロマンにあると思います。
そして、そのロマンにどれだけお金を出す人がいるかで勝負が決まる。
日常生活になければ困る商品ではないのです。
ロマンがなければ、他の店で買えば、そう、アマゾンで買えばいい。(実際売ってます)
何でもない商品を探し出してブランドの名入れをするだけで、あるいはそれらをある視点で集めて提示するだけで輝き出すなんて、ブランドって本当に面白いです。
逆に言うと、ロマンを求める人のニーズをつかみ、どこにでもあるものをどこにでもあるように見せず、ロマンをトリガーにして買わせることが、プランナーの手腕だということをフレッシュサービスは教えてくれます。

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松本知彦 Tomohiko Matsumoto

東京新宿生まれ。
漫画家の父親を持ち、幼い頃より絵だけは抜群に上手かったが、
働く母の姿を見て葛藤し、美術を捨てて一般の道に進むことを決意。
しかし高校で出逢った美術の先生に熱心に説得され、再び芸術の道に。
その後、美術大学を卒業するも一般の上場企業に就職。
10年勤務ののち、またしてもクリエイティブを目指して退社独立、現在に至る。

  • 趣味:考えること
  • 特技:ドラム(最近叩いていない)
  • 好きなもの:ドリトス、ドリフターズ、
    青山ブックセンター