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箱への愛、もう作れない箱

仕事
Feb 05,2021

前回は25周年の節目に作ったコーポレートツールを紹介しました。

紹介するのは簡単ですが、着想から完成まで6ヵ月以上を費やし、

携わったスタッフみんなの愛がこのツールには詰まってます。

機会があれば、是非皆さんにもお届けしたい。

https://www.dig.co.jp/blog/danwashitsu/2021/01/25.html

会社案内の冊子を入れる箱をゼロから作りました。
話は飛びますが、僕は箱という形状が大好きです。
自分でその理由を説明することは難しいのですが、
たぶんもっとも単純でミニマルな構造、なのにとても実用的な機能性、そんな要素に惹きつけられるのだと思います。
蓋を閉めて、棚などに収まっている状態の佇まいも好きですね。
先日も素敵な箱を購入してしまいました。
艶消しのマットな塗装を施したブリキの缶のボックスです。
写真では紙のようにも見えますが、素材はブリキ。
シンプルで、なんてことはない箱なのですが、欲しくなってしまう。
これは、以前このブログでも紹介したMOHEIMのプロダクトです。
https://www.dig.co.jp/blog/danwashitsu/2020/03/post-84.html
ハガキや小物何でも入れて使っています。
そして以前購入した、浅草橋にあるsyuroの名刺入れ。
鈍い光を放つ無塗装の銅製の箱がなんともよいです。
こちらも3種類の素材で、複数のサイズがありますが、いくつか素材違いで購入しました。
こちらはエイジングを楽しめるのがよいです
そして、箱と言えば、忘れてはならないのが、60年代にニューヨークで活躍した彫刻家、現代美術家、デザイナーのドナルド・ジャッド。
大好きな作家です。
ニューヨークの古いビルを購入し、そこで住みつつ制作活動をしながら、同じビル内に自分の作品の常設展示のフロアを設けるなど、作品だけでなく自分で美術館も作っちゃうっていう発想も斬新です。
その後移住したテキサスでも同じように広大な土地を取得し、そこで巨大な作品を制作~展示するようになります。
そのスタイルは一貫してミニマリズムを極めた立方体の作品。
まぁ言ってみれば、本当にシンプルな箱です。
晩年には家具のデザインにも着手しますが、その中でも装飾を極限まで削ぎ落した木の椅子は有名ですね。
他にもインテリアデザインのような発想で制作された、カラフルにペイントされたアルミの箱の作品や、屋外に設置したコンクリートの巨大なボックスなどなど、どれも本当にカッコいい。
モダニズムに貫かれていて、作品というより、建築を見ているような潔いスタイルに惹きつけられます。
ジャッドのカッコいい仕事を少しご紹介
そんな箱好きということもあって、今回制作した25周年のコーポレートツールでもオリジナルの箱を制作しました。
会社案内や近年の実績を紹介するリーフレット6冊を収納するボックスです。
まず最初に考えたのは、どこに頼めばオリジナルで箱を作ってくれるか?ということ。
以前表参道にあったギャルソンとD&Dのコラボストアで販売していた、いろいろな種類のカラフルな箱がアタマにあって、いつか自分でもこんな箱を作ってみたいなぁと思っていました。
インテリアデザイナーの片山正道さんが平林奈緒美さんに発注して作ってもらった、事務所で使うオリジナルのストレージボックス、N.ハリウッド(確か)がオリジナルで作ったシャツ?専用の収納ボックス、などがずっと頭の片隅にありました。

大正時代に創業した早稲田にある活版印刷の佐々木活字。
以前から様々なツールを活版で作ってもらったり、スタッフに貴重な活版印刷の現場を見学させてもらったりと、大変にお世話になっている印刷屋さんです。
鉛でできた貴重な母型(ぼけい)を今も保有し、活版の技術を現在まで受け継いでいます。
その佐々木活字から通りを挟んだ向かいに、紙器の小さな工場があって、佐々木活字を訪問する度に気になって、1度見学させてくださいとお願いして、箱を組み立てる制作工程の現場を見せてもらったことがありました。
いつか箱を作るならそこへお願いしたいと以前から思っていましたが、小ロットのオーダーは受けてくれないかもと思いつつ、勇気を出して相談しに行くと快諾してくれました。
工藤紙器は、普段はお菓子や和菓子の貼り箱を専門に作っています。
ただ自分の持っていたイメージは、キレイに仕上げられたお菓子の箱ではなく、厚紙で作られた素材そのままの業務用のような粗野な箱。
駄箱に近いものなので、そのイメージを説明したのですが、普段は作らない種類の箱であったにも関わらず、また儲からない少数のオーダーであったにも関わらず、工藤さんは快く引き受けてくれました。
工藤さんは腰が曲がっていて(老人のように前に曲がっているのではなく、横に)、歩くのがやや不自由そうでしたが、話すと飾り気のない職人さんという感じで、でも親切に対応してくれました。
冊子の仕上がり寸法と、6冊重ねた時のだいたいの厚さを伝えて、使う紙の種類を選んだら、オリジナルの箱の制作はスタートです。
陶芸作家のイイボシさんのお皿たち
イイボシさんのお皿が入っている箱のデザインが素敵
その頃、うつわ作家のイイホシユミコさんのお皿を買うとついてくる、お皿を収納する箱が素敵だなと思っていました。
今回のイメージはそれに近いです。
スタンプや角口から出ている耳のようなタグも可愛いなと思っていましたが、今回は初回なので手間を省いてシールにすることにしました。
オーダーしてから1週間後に上がったサンプルを確認し、少しだけサイズを調整して本制作がスタート。
2週間ほど経過したあと、完成したので取りに来て欲しいとの連絡を受けたので、受け取りのため再び早稲田へ。
受取の際、工藤さんは以前会ったときより口数が少なく、あまり元気がないように見えたのが少し気になりましたが、思い通りに出来上がった箱が目の前に積まれていました。
オリジナルの箱がコーポレートツールの要になっています。
想いのこもった箱、大切に使います。
ここからは前の記事に書いたように、冊子を箱にセットしてシールを貼り、白いゴムで留めたらオリジナルのバッグに入れる、これでセットは完成です。
納品してもらった箱は、6冊の冊子を入れるサイズにぴったりでした。
この箱の完成度を見て、クオリティに心配がないことを確信した僕は、続けて事務所のストレージボックスと名刺入れの箱を、今度はグラフィックのデザインも入れて作ることを決めました。
コーポレートツールの箱が完成してから2週間くらい経った頃、この発注のために再度工藤紙器を訪問しました。
しかし、、、、
工藤さんは、そこにはいませんでした。
娘さんに聞いたところ、以前から内臓の癌を患っており、それが原因で亡くなったとのことでした。
腰が曲がっていたのはそのためだった。
ただ最後まで仕事ができたのは、本人は幸せだったに違いないとおっしゃっていました。
家族経営で娘さんたちも制作を手伝っていましたが、通常作られている菓子の貼り箱ではなく、うちの会社がオーダーしたような箱を作るには、それなりに高い技術が必要で、工藤さん本人以外に作れる人がいない。
いなくなった今、工藤紙器では同じような箱は作れない、と言われました。
自分の病気を知っていて、自分にしかできないオーダーに対しても快諾してくれた工藤さん。
打合せの時、無理しないで座ってくださいと言っても、大丈夫、大丈夫と言っていた工藤さん。
なんだか、やるせない気持ちになりました。
もしかすると、ゼロから図面を引いて組み立ててくれたのは、この箱が最後だったのではないか、そう思うと、今手元にある箱は工藤さんが作ってくれた最後の箱かもしれない。
使いたくないという想いもあります。
でも使う目的で作ってもらったのだから、使った方が工藤さんも嬉しいに違いない、そう感じています。
工藤さんの手仕事、最後の仕事。
本当に感謝しています。

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松本知彦 Tomohiko Matsumoto

東京新宿生まれ。
漫画家の父親を持ち、幼い頃より絵だけは抜群に上手かったが、
働く母の姿を見て葛藤し、美術を捨てて一般の道に進むことを決意。
しかし高校で出逢った美術の先生に熱心に説得され、再び芸術の道に。
その後、美術大学を卒業するも一般の上場企業に就職。
10年勤務ののち、またしてもクリエイティブを目指して退社独立、現在に至る。

  • 趣味:考えること
  • 特技:ドラム(最近叩いていない)
  • 好きなもの:ドリトス、ドリフターズ、
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