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デザインは消費のインサイトに成り得る

ファッション
Nov 07,2022

冬が近づいてきましたね。

1年の中で、晩秋から初冬にかけてが僕は一番好きです。

道路に長く伸びた影、美しい夕焼け、ウールのコート、シェトランドの手触り、

秋は人が恋しくなる季節ですね。

最近カシミアの入ったセーターを買いました。
前回はオフィスで毎月開く全体会議の中で、スタッフみんなに話しているデザインの考え方について少し紹介しました。
毎回毎回、資料を作るのに少なくとも5時間はかかるのですが(それ以上)、話す時間は20分くらい。
多忙な中、この資料を作ることが相当に、本当に相当に負担なのですが、目の前のワークだけに捕らわれず、その先を考えて業務に向かうことの必要性に気づいて欲しい。
毎月の話が、きっとスタッフの誰かには響くはず、全員ではなくとも、、、、そう思って続けています。
ただ、反応はほとんどありませんが、、、汗
でも負けずに、くじけず続けているのは、先輩として伝えたいから、学んで欲しいからに他なりません。
自分は上司や先輩から、このような薫陶を受けたことがありません。
よく言われる自分で学べ、という環境で育ちました。
このような非効率なことをやる考えや余裕は、きっと当時の先輩たちにはなかったし、仕事の意味より結果が最重要と考えるのは企業では当たり前のことだと思います。
売上を上げ、目の前の仕事をする、それが企業で働く者のあるべき姿ですから。
しかし、その先にある大切なことを学べば、目の前の仕事のアウトプットの精度、そして本人の仕事への考え方が変わるのではないかと思ってます。
ただし本人がそこに「気が付けば」ですが。
https://www.dig.co.jp/blog/danwashitsu/2022/10/post-134.html


この資料に合わせて、大学の講義で話す資料を毎週作っているので、マジで、マジで、時間に追われてギリの状況で働いています。クライアントの業務もあるのでね・・・
話す資料作りは深夜まで及び、なぜそこまでしてやるの?とよく聞かれるんですが、自分がそうした性格であることが原因として大きく、やっぱり上にいる者、先を歩いた先輩として人に経験を伝える、教えることはミッションのように感じているからです。
あー、とは言っても、毎週マジでギリです。
タイポグラフィが印刷されたオリジナルのBOXパッケージ。
答えは箱の中にあります。
前回このブログでは「インサイト」について話しました。
インサイトは洞察・物事を見抜く力。
人を動かす隠れた心理、目に見えない"決め手"のことです。
僕らはクライアントのビジネスをサポートすることを生業としている、言い換えればクライアントが提供するサービスや商品について世の中の多くの人に気づいてもらい、選んでもらう状態を作る仕事でもあるわけです。
消費者と企業、両者の想いを翻訳してつなぐことが仕事なのです。
2者をつなぐためには、使う側、選ぶ側の欲求=インサイトを探る行為が必要不可欠のように思います。
デザインをするのではなく、デザインするための起点としての動機に気が付くことが重要なのです。

なぜその商品・サービスを選んだのか?
あなたはなぜその家電を、スマホを、セーターを買ったのか、明確に説明できるでしょうか?
これだけモノがあふれ、どの商品を買っても失敗しない世の中で、本当に欲しいものを見つけて買うケースばかりではないと思います。
こうしたことを深く考えることがデザインをすることの一助となる
答えは日常の中にあるのです。
求められる商品に必要な2つのアウトプット。
前回は、アメリカの心理学者マズローが唱えた欲求5段階を紹介しました。
その中の「自己実現欲求=自分らしく生きたいという欲求」が商品を選ぶ背景にあることにも言及しました。
この商品を持つことで私は自分らしくなれるだろうか?
そして水野学が著書の中で書いている、ヒットする商品に必要な2つの重要な要素についても触れました。
1.品質、価格、パッケージ、広告など意識的なアウトプット
2.発信する人、会社が内包している無意識のアウトプット
これら2つが揃った時こそ、売れる「イノベーションアウトプット」が生まれると。

今回は僕が普段生活していて気が付いた、これらに関する事例を紹介します。
ちょっと寒くなってきたので、少し前からセーターが欲しいなと思っていました。
セーターにもいくつか種類がありますが、クルーネック(丸首)のセーターが欲しいなと。
クルーネックのセーターは、どちらかといえばデザインのバリエーションが少ないアイデムだと思います。
ハイゲージの細い毛糸で作られた、ジャケットの下などに着る、薄くて上質なセーター
ミドルゲージで織られた、スコットランドのシェトランドセーターにあるような、アイビーリーガーたちが愛用した一般的な中肉のセーター
太い毛糸でざっくり織られた、漁師たちが着るアランセーターのように織模様が入った、手編みをルーツに持つアウターとしての機能が高いセーター(アンデルセンアンデルセンのような)
変わりどころでは、ジョン・ライドン(パンクの)が着ていたモヘヤのセーターもありますが、
今回自分が欲しいと思っていたのはシェトランドのようなミドルゲージのセーターです。

毛糸の太さ、色、編み方などの視覚的なデザイン性、メリノウール、ラムウール、カシミアなどの素材の違い、選択軸はこの2つの掛け合わせになりますが、価格も大切ですね。
今周りを見渡すと、メリノウールなら2900円、カシミア100%でも1万ちょいで買える時代になりました。(ユニクロのサイトで検索)
2000円台のセーターなんて昔じゃ考えられませんね。
同じようなセーターでも他のブランドだと8万で売られていて、見た目はそんなに変わりません。
溢れる情報量と膨大な選択肢の中で、消費者は何を軸にセーターを選ぶのでしょうか?
見た目のデザインにあまり差がないなら価格?

個人的にはセーターは普通でいい。
いえ、正確には普通がいい。
絶対に普通でよいアイテムがセーターだと思ってます。
よいセーターは普通であるべき。
普通がいいなら、ユニクロの2000円のセーターで十分ではないか?
きっと答えはYESでしょう。

ここでインサイトです。
今求められるライフスタイルは、カジュアルな生活の中に少しだけ付加価値を求める傾向が強くなっていると思います。
それは無意識だけれども、あふれかえる膨大な情報量の中で、そして先の見えない不安定な社会状況の中で、間違いのないモノ=確かな良いものを選びたいという意識が強くなっていることが理由として挙げられるのではないでしょうか。
身に付けるモノも同じで、普通だけど質の良いモノ、長く使える王道のモノを選ぶ傾向が強くなっていると日々感じています。
デニムといえばリーバイスのように、人々はそのジャンルといえばこれ、のようなブランドを求める傾向が強くなっています。
今デニムで、ディーゼルやヤコブコーエンを買う人はかなり減ったことでしょう。
オーセンティックで普通だけれど、良いモノを身に着けたい。
セーターこそがまさにそこに該当するアイテムのように思います。
ブランドメッセージはまっすぐ突き刺さるコピー。
米富繊維の「THIS IS SWEATER」。
僕が買ったのがこのセーターです。
見た目は至って普通のセーター。
そこに自分らしさを見つけてもらう工夫、インサイトに対するデザインの戦略があります。
ニットメーカーとして山形県で創業され、数々のOEMを請け負ってきた70年の歴史を持つ米富繊維が、コンシューマ向けに直接販売に踏み切ったのがこの「THIS IS SWEATER」です。
フランスメリノウールとカシミア、このあり得ない組合せを糸から作るという挑戦。
そこにモノ作りへのプライドが見えます。
見た目ではわからない、高い技術で作られたセーターなのです。
水野学が言う売れる商品の2つのうちの2つめ。
2.発信する人、会社が内包している無意識のアウトプット
モノづくりへの想い、他の追随を許さな技術がこの商品にあると言えるでしょう。
ただこれだけでは消費者は選ばない。
探していたのはコピー通りの本当に普通のセーターでした。
セーターは普通がいい。
普通に見えるけど、そこに作り手の姿勢や考え方、プラスαの高い技術があって欲しい。
そんな想いを逆手に取って表現した「セーターは普通のもの」というストレートなコピーに、僕のような人はまずやられてしまいますね。
カジュアルな生活に付加価値を求めたい、という人たちの水面下にある嗜好性を呼び覚ましているのです。
オーセンティックで普通だけれど、良いモノをできるだけ長く身に着けたいというインサイトへの着目が見て取れます。
「セーターとは何でしょう?」というTHIS IS SWEATERのブランドメッセージに唸らされてしまう。
デザイン&コピーライトは、山形県で活動するAKAONIが手掛けています。
求めていた普通のセーター。これがセーターのスタンダード。
もう1つの条件
1.品質、価格、パッケージ、広告など意識的なアウトプット
僕はこれにやられてしまいました。
セーターを買うのではなく、メッセージを買っているくらいの感覚。
箱のデザインやメッセージに、普通だけれど上質で、長く大切にしたいモノ=「自分らしい生活の実現」という自分が明確に言語化できていなかったセーターへの想いが具現化されており、そこに自分が求めていたライフスタイルとの合致があります。
この正体こそが、マズローが唱えた欲求5段階の中の「自己実現欲求=自分らしく生きたいという欲求」それがこの商品を選ぶ理由=インサイトになっている。
タグのデザインに込めたメッセージだけで、興味喚起される商品だと思います。
そのまんまのブランド名、唸らせますね。。
Web、カタログ、すべてにおいて、このインサイトがメッセージとして統一展開されている。
Webからも購入できますが、水野学が経営に関わる「THE SHOP」で試着することも可能です。
渋谷スクランブルスクエアに店舗がありますから。
買わなくても、パッケージを見て感じてください。
https://www.thisisasweater.jp/
カタログもかなりカッコいい。

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松本知彦 Tomohiko Matsumoto

東京新宿生まれ。
漫画家の父親を持ち、幼い頃より絵だけは抜群に上手かったが、
働く母の姿を見て葛藤し、美術を捨てて一般の道に進むことを決意。
しかし高校で出逢った美術の先生に熱心に説得され、再び芸術の道に。
その後、美術大学を卒業するも一般の上場企業に就職。
10年勤務ののち、またしてもクリエイティブを目指して退社独立、現在に至る。

  • 趣味:考えること
  • 特技:ドラム(最近叩いていない)
  • 好きなもの:ドリトス、ドリフターズ、
    青山ブックセンター