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我が青春のアイコン、デイヴィッド・ホックニー

クリエーター
Sep 05,2023

行ってきました、デイヴィッド・ホックニー展。

東京都現代美術館で11月5日まで開かれています。

ここ最近展覧会の投稿が多くなっていますが、今それだけ見応えのある展示が多いってことです。

ホックニー展もよかったですねー。

みんな感じると思いますが、ホックニーはまず色ですね。
ホックニーについて、どこから話せばいいかなぁ。
自分がホックニーについて初めて知ったのは、高校2年生の頃だったと思います。
美術予備校(今は画塾というみたいですが)の先生が話す話の中に、ホックニーの名前が時々出てきたので見るようになりました。
内容は、ホックニーのポートレートの作品に関して、特にクロッキーのような鉛筆のドローイングについてよくコメントしてました。
1本の線で量感を表す、影もつけず、1本の線の内側と外側で、物質的な塊とヴォイドをどうやって描き分けるか?
高校生の時の自分は、先生の言ってることは理解できたけど、そのスキルを高いレベルでどうやって実践できるのか、迷いながら試行錯誤していたことを思い出します。
先生は、エゴン・シーレのクロッキーについても、よく引き合いに出してました。
余談ですが、シーレのクロッキーは、鉛筆で引かれた1本の線がまるで生き物のように見えます。
これらの大きい作品、すべてiPadで描かれています。
当時ホックニーは、僕らのような美術を志す学生にとっては、ニューウェイブの存在であり、その作品はとても斬新に映りました。
ホックニーのことを当時は時の人だと思っていたんですが、今思えば、その時点で既に20年近く前に描かれた作品を見て、ニューウェイブだと思っていたことになりますね。
彼がロンドンで、POP ARTのアーティストとして頭角を現してきたのは1960年代。
そして67年に英国からLAに移住し、西海岸の強い光の中で制作されたプールのシリーズを手掛けて、一躍時の人になった。
斬新な現代美術だと思ったプールの絵は、僕らが見た時、描かれてから既に20年近くも経過していたということになります。
POP ARTの創始者として、同じく50年代後半から60年代に活躍したリチャード・ハミルトン(ビートルズのジャケットも手掛けた)の同時代の作品と比較してみても、やっぱりホックニーの方が斬新で新しさを感じます。
そしてその斬新な表現を50年もの間、第1線で続けていることにはオドロキしかありません。
そんなわけで、僕が一番ホックニーの作品に触れていたのは、高校生の時でした。
80年代にポラロイドで撮影した写真のコラージュ作品などを見て、同じ予備校に通う友人たちと話題にしたものです。
でも予備校の先生の話と同じく、表現の本質まで理解せずに、ただカッコいいとか、知ってることが自慢みたいな、話の中身は低レベルだったと思います。
iPadで描かれた全長90メートルにも及ぶ、四季を描いた作品。
大学に入学して以降も、ホックニーのことは時々話題になりました。
アートというジャンルだけでなく、商業イラストレーション、そしてファッション、様々なカルチャー分野に影響を与えていたからだと思います。
作家本人の外見もお洒落で、今のウェス・アンダーソンみたいで、ユニークでした。

10年ほど前、当時小学生のリンタロを連れて、2人でロンドンに行った時、ちょうどホックニーの大規模な展示がロイヤルアカデミーで開かれていることを知りました。
これを見ないわけにはいかないと思い、さっそく早朝から2人で出かけたのですが・・・
印象派などと違って、現代美術だからそれほど人は来ないかも、しかし本国での開催だから並ぶかもしれない、もしものために早くに出発しよう、
そう思って9時に美術館に着くくらいの時間に朝食も食べずに出かけたのですが、現地に着くと既に長蛇の列で、、、なんとそこから3時間半も並ぶことに・・・・
高いゲストチケットの人をじゃんじゃん先に入れて、エコノミーの列はまったく進まない。
階級制の国だからなのか??
春休みの2月に行ったので当日は寒かったのですが、並んでいる時に雨も降り出し、立ちっぱなしで何も飲まず、何も食べずの3時間半(小学生を1人残して何かを買いに行くことも出来ず)。
ホックニーなんて何のこっちゃわからない、小5のリンタロはよく耐えてくれました。
やっとのことで入場できたものの、中はたくさんの人人人、人が多すぎて作品の鑑賞もままならない状態。
しかも自分が好きな60~70年代の作品はなく、今回東京でも展示されていた動画作品など新しい作品がほとんどでした。
3時間半並んだにもかかわらず、結局早くに出てきてしまいました。
今回知りましたが、ロンドンの展示には60万人が訪れたとのことで、読みが甘かった。
リンタロには申し訳ない気持ちでいっぱいです。
写真とペイントを組み合わせた巨大作品もありました。
アクリルで描かれた「クラーク夫妻とパーシー」
そこから数年経って、2018年くらいから、日本でもホックニーが少しづつ話題に上がってきていることを感じていました。
自分にとってホックニーは80年代のアイコンですが、そのポップな色使い、極めて平面的な空間表現が、80年代のリバイバル含めて、SNS以降の時代にマッチしているのかもしれません。
そんな中での今回の展覧会は、タイミングとしてはベストでしょう。
今年86歳のホックニー。
今でもiPadを駆使して作品を制作していることを知って驚きました。
そして今回はロンドンの展示と違って、60~70年代の作品、自分の好きなプールやスプリンクラーの作品も展示されている。
日本での展示は27年ぶりだそうですが、テートギャラリーにある有名な「クラーク夫妻とパーシー」も展示されていました。
先月見に行った感じでは、ロンドンよりもずっと人も少なくて、ゆったり安心して見られます。
日本ではあんまり知られてないからでしょう。
ロンドンとパリ、どちらも60万人以上の来館があったことと比較すると、現代美術に対する認識の違いを感じます。
ロンドンでは若い人だけではなく、老若男女たくさんの人が来場してました。
世界にセンセーショナルと起こしたホックニーの著書「秘密の知識」
ミュージアムショップで売ってるグッズは魅力的なモノばかりです。
自分は、キーホルダーとTシャツ、展示カタログを買いましたが、注意点として、通常の展示と違って、チケット購入者しかグッズを買うことができません。
買い逃したら、もう1度チケットを買って入場するしか方法はないです。
個人的にはTシャツをオススメしたい。
しかしTシャツ以外にも、是非オススメしたいものがありました。

ミュージアムショップを見ていて、その中の1つに目が留まります。
ホックニーの著書「秘密の知識」が売られていたこと。
この書籍を読んだのは10年以上前ですが、その時の記憶が蘇ってきました。
自分が感銘を受けた書籍なので是非におすすめしたい。
100年ほどの間に、なぜこれほど描き方がリアルに変化したのか?
この本は、ホックニーの作品集ではありません。
ほんの少しだけホックニーの作品も紹介されてはいますが、主題は西洋美術史の深い探求です。
なぜフェルメールは、写真のようにリアリティのある作品を描くことができたのか?
カラヴァッジョや、ベラスケスの絵はどうして光のコントラストが強いのか?
アングルの素描はなぜあれほどまでに完璧なのか?
これらの謎をホックニーが解き明かしていく。
これが凄く面白いのです。
左の下絵より右の本作は1.4倍大きいが、重ねるとミリ単位のズレしかない。
左の絵より後に描かれた右の絵のカタチは、左とピタリと一致している。
美術評論家や研究者が書いた本ならともかく、作家自らが膨大な数の絵画を研究し、謎を解き明かし、さらにそれを自分で実際に実践して証明するという、こんな書籍は他にはないのではないでしょうか?
何より、自らが描いて証明するという点が、作家ならではの試みで、興味深いです。
ミケランジェロをはじめ、誰もが知っている巨匠たちの作品の秘密を解き明かし実証する。
これが本当にワクワクして面白いんです。
ワクワクなんて簡単な表現ではなくて、自分にとっては衝撃でした。
写真、素描、コラージュ、すべての技法を駆使するホックニーだから書けたのではないかな。
そんな気がしてなりません。
写真のように画面すべてを近視眼的に描くと空間が歪むという実証。
書かれているのは西洋絵画史の中で受け継がれてきた「秘密の知識」についてですが、絵画における三次元空間の捉え方とその表現方法がテーマです。
それはホックニーの作品の主題そのものでもあります。
結局のところ「秘密の知識」とは何なのか?
それは絵画制作において、ヨーロッパに広まった光学機器の使用です。
写真のない時代に、フェルメールは自分の目の前にある情景を、レンズを通してキャンバスに投影して描いたという仮説。
フランドル絵画からイタリアルネサンスまで、膨大な数の西洋絵画からそれを解き明かしていくのです。
しかし光学機器を使えば誰でも巨匠のような絵が描けるか?といえば決してそうではない。
特にカラヴァッジオの作品については、かなり切り込んでます。
皆さん是非読んでみてください。
読むと、絵の見方が変わります。

そしてホックニー展、良い展示なので、もしお時間あれば是非。
型紙のカタチがよいTシャツもオススメです。
とても刺激になる展示でした。是非とも足を運んでください。

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松本知彦 Tomohiko Matsumoto

東京新宿生まれ。
漫画家の父親を持ち、幼い頃より絵だけは抜群に上手かったが、
働く母の姿を見て葛藤し、美術を捨てて一般の道に進むことを決意。
しかし高校で出逢った美術の先生に熱心に説得され、再び芸術の道に。
その後、美術大学を卒業するも一般の上場企業に就職。
10年勤務ののち、またしてもクリエイティブを目指して退社独立、現在に至る。

  • 趣味:考えること
  • 特技:ドラム(最近叩いていない)
  • 好きなもの:ドリトス、ドリフターズ、
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